矯正歯科治療で、抜歯をすることがあります。一方、健康な歯を抜くことに抵抗を感じる人や、抜歯を希望しない患者さんも少なくありません。
近年、「歯を抜かない矯正」をうたう治療法を目にする機会が増えてきました。矯正歯科治療における抜歯の歴史を振り返り、その背景について紹介します。
1890年頃、米国に「近代矯正学の父」と呼ばれるエドワード・H・アングルという歯科医師がいました。彼は、近代矯正歯科学の発展に大きく貢献した人です。彼が行った矯正歯科治療は、歯を抜かない矯正でした。
1920年代、矯正歯科の分野で「大抜歯論争」が起こります。歯を抜かない治療を推奨するアングル氏と、抜くカルバン・S・ケイス氏の間で、抜歯の必要性を巡って激しい議論が交わされました。
その後、30~40年代にアングル氏の弟子であるチャールズ・H・ツイード氏が、非抜歯矯正歯科の治療後に歯並びが悪くなる症例に直面します。抜歯をして再治療した結果、非抜歯治療に比べて良好な成績を得られた症例が報告されました。
この歴史から、歯を抜かない矯正は19世紀から続く古典的な治療法で、抜歯を伴う矯正の方が後に確立された治療法であることが分かります。そして、抜歯をした方が結果が良かったのです。
しかし、抜歯をしなくてもきちんと治療できる症例もあります。現在の矯正歯科治療では、抜歯・非抜歯はきちんとした判断に基づいて決定されます。「歯を抜かない矯正」という言葉だけで判断せず、納得できる説明を受けることが大切です。
(鹿児島県歯科医師会 医療管理委員会委員 川邉 紀章)
抜歯は説明受けて判断を 矯正治療
